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1型糖尿病治療の「現在地」と、これからへの不安

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こんにちは。医師の恩田です。

7月5日、あおいType1 Meetingを開催させていただきました。図らずも「インスリンポンプの日」でした。

Meetingでは「1型糖尿病の現在地と未来」というテーマでお話ししました。1型糖尿病の根治を目指す研究は着実に進んでいて、世界中で成果が出始めています。ただ、当面の主役は変わらずインスリン治療です。その中で現在、世界の標準治療はAID療法に移りつつあります。

AID療法とは、CGM(持続血糖モニター)とインスリンポンプを組み合わせ、血糖値に応じて自動でインスリンを調整する治療のこと。国や地域による差はありますが、欧米を中心とした多くの国で標準治療となりつつあります。

これまで日本は、多少のタイムラグはあっても、欧米諸国と遜色ない治療法が入ってきました。でも今は、このままだとその流れが怪しくなってしまうのではないか——そう危惧しています。

Type 1 Meetingでお話ししたことの中から、この部分に焦点を当てて今日はお話ししたいと思います。

 

経済支援は大前提。でも混同してはいけない話がある

1型糖尿病は非常に特殊な立ち位置です。若年発症が多く、生涯にわたって高額治療を必要とするにもかかわらず、日本では成人以降の経済支援策が確立されていません。公的な経済支援の充実は必要不可欠です。ここは大前提です。ただ最近、一つ気になっていることがあります。それは「患者さんの自己負担が重い」という問題と、「治療そのものの価値」の話が、時々混同されているように感じることです。

 

診療報酬の実態

世界的に見て、日本のインスリン治療やAID療法は本当に高額なのでしょうか。私は、必ずしもそうではないと思っています。少なくとも我々のクリニックでは、インスリンポンプ診療は採算を目的として提供できる医療ではありません。メーカー側の利益も非常に限定的だと感じています。もちろん医療機関によって状況は異なりますし、メーカーの経営について私が評価できる立場でもありません。

しかし、現場で診療している一人として、AID治療は現在の仕組みで十分に成り立つ医療とは言い難いと感じています。

ペン型インスリンとSMBGによる治療と比べると、インスリンポンプ診療には機器のレンタル料だけでなく、多くの人的資源が必要です。導入時の教育、データ解析、アルゴリズムの理解、設定の調整、トラブル対応、患者さんへの継続的な支援。さらに、それらは医師だけでは成り立ちません。看護師、管理栄養士、事務スタッフなど、多職種が関わって初めて質の高い診療が提供できます。

インスリンポンプの診療報酬点数は、従来のペン型治療より高く設定されていますが、そこにかかるコストと労力を差し引けば、必ずしも見合った評価とは言えないのが実情です。こうした事情から、教育体制や専門スタッフの確保など、ポンプを導入したくてもできない事情を抱える医療機関は少なくありません。
インスリンポンプが本当の意味で標準治療になるには、ポンプを扱える医療機関がもっともっと増える必要があります。でも、今の評価の仕組みのままではポンプを扱える医療機関が増えていくのは難しいかもしれません。

 

進化する技術、変わらない評価

この数年でインスリンポンプは大きく進化しました。それでも診療報酬はずっと変わっていません。技術がどれだけ進歩しても、それを評価する仕組みがない。実際、前回のインスリンポンプが新しくなる時も患者さんに金銭的負担はありませんでした。その分、デバイス代やアップデートに関わる人的・物質的資源はメーカーと医療機関側が負担しています。また、古いポンプでも最新のポンプでも診療報酬点数は変わりません
インスリンポンプもインスリンも、日本はほぼ海外からの輸入に頼っています。進歩を正当に評価しない国に、企業がわざわざ新しい治療を持ってきてくれるでしょうか。
今は「患者さんのために」というメーカーや医療機関の使命感で支えられている状態です。そこに円安が追い打ちをかけています。輸入コストは上がり続けているのに、保険制度の中で価格が柔軟に見直される仕組みがありません。

もともと無理のある構造に、円安がさらに負荷をかけている。
もちろん、企業には企業の経営判断があります。それでも私は、「技術を正当に評価しない市場」に、新しい治療が優先的に導入され続けるとは限らないと思っています。海外では標準治療になっている技術も、日本で治療としてきちんと評価される仕組み(保険点数、薬価、償還制度)がなければ、今後は日本に入ってこなくなるかもしれません。そして、仮に新しい治療が日本へ入ってきたとしても、それを継続して提供できる医療機関が十分に残っているのだろうか、という不安もあります。

 

少し違う角度から——マンジャロの薬価引き下げに思うこと

ポンプの話とは少し違う角度からですが、構造的につながっていると感じる最近の出来事について触れておきます。

2026年5月、中央社会保険医療協議会は、2型糖尿病治療薬「マンジャロ皮下注」について、薬価を大きく引き下げることを了承しました(適用は2026年8月から)。「持続可能性特例価格調整」という仕組みによるもので、NDB(レセプト)データに基づき、年間販売額が想定を大きく上回ったと判断されたための措置です。

これは、想定を超えて売れた薬の価格を事後的に是正し、保険財政を守るための仕組みであり、ポンプの「進歩しても点数が上がらない」という慢性的な過小評価とは、そもそもの方向性が異なります。また値下げ自体は、患者さんの自己負担が軽くなるという意味で、短期的には、むしろ歓迎すべきニュースです。

ただ、私が気になっているのは、もう少し先の話です。「よく効いて、広く使われれば使われるほど、薬価は下げられる」という前例が積み重なれば、企業側に「日本では価値が正当に評価されない」と判断されかねません。中長期的に見たとき、企業の新しい治療・新しいデバイスを日本に優先的に投入する意欲を削いでしまうのではないか、という懸念です。

インスリンポンプやAID療法について私が本質的に心配しているのも、同じことです。角度は違えど、「技術の普及・進化がきちんと評価に反映されない」という構造が、日本の糖尿病治療のあちこちに広がっていくとしたら——長い目で見て困るのは、他でもない患者さん自身なのです。

 

声の上げ方を、間違えないために

1型糖尿病の経済支援を求めて声を上げ続けることは、絶対に必要です。でも、その声の上げ方を間違えないようにしなくてはなりません。

「治療が高い」と価格そのものを叩けば、行き着く先は診療報酬や薬価のさらなる引き下げです。それは結果として、新しい治療が日本に来なくなる流れを後押ししてしまいかねません。求めるべきは「自己負担を支える仕組み」です。ここを間違えると、声を上げるほど、治療の選択肢を狭めてしまうことにつながりかねません

 

私たちが本当に求めるべきこと

私たちが本当に求めるべきなのは、治療を安くすることではありません。患者さんが、必要な治療を安心して受けられるように自己負担を支える仕組みです。そして同時に、その治療を支える技術や医療現場が、持続可能であるよう正当に評価される仕組みです。

患者さんへの経済支援と、治療の価値を適切に評価すること。この二つは対立するものではなく、両者が揃うことで新しい治療が患者さんのもとへ届き続けるのだと思います。

保険医療のあり方を、私たちはもう本気で考え直す時期に来ているのかもしれません

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