
糖尿病治療と肥満症治療の質を高めるために
当院では12月より体成分分析装置「InBody 580」を導入します

当院では、糖尿病治療および肥満症治療における「身体の中身の変化」をより正確に評価するため、医療用体成分分析装置 InBody 580 を新たに導入いたします。
体重やBMIだけでは捉えきれない、筋肉量・体脂肪量・水分バランスを精密に測定することで、患者さん一人ひとりに最適な治療を提供することを目指しています。
■ 糖尿病・肥満症治療における筋肉量維持の重要性
糖尿病を持つ方や肥満症の方では、筋肉量の維持が血糖コントロールや基礎代謝の維持に直結します。筋肉が多いほど糖を効率よく消費でき、減量時も必要な筋肉を保つことでリバウンドしにくく健康的な減量に繋げることができます。筋肉量の低下はインスリン抵抗性の悪化やサルコペニア肥満のリスクを高めるため、治療や運動指導で維持・増加を意識することが重要です。
■ なぜ InBody 580 を導入するのか
糖尿病や肥満症では、治療の過程で筋肉量や水分量がどのように変化したかを正しく把握することが極めて重要です。
特に糖尿病では「血糖コントロールの良否」が筋肉量の維持に大きく影響することが知られており、体重が減っても筋肉が落ちていないかを細かく確認する必要があります。
しかし、多くの家庭用体組成計や簡易的な測定器では、
年齢・性別による「統計的補正」を加えて数値を推定している ため、次のようなケースでは誤差が生じやすいのが実情です。
- 筋肉量の多い女性
- 痩せている若年者
- 浮腫を伴う患者さん
- 高度肥満の方
これに対し InBody 580 は統計補正を使用せず、実測値のみで体成分を算出するため、糖尿病を持つ方や浮腫を有する方、高度肥満の方でも精度の高い評価が可能となります。
■ InBodyで何がわかるのか
InBody 580 では以下の項目を詳細に測定できます。
- 全身・部位別の筋肉量
- 体脂肪量、体脂肪率、肥満指標(BMI)
- 体水分量(ICW/ECW/TBW)
- 細胞外水分比(ECW/TBW)
- 基礎代謝量
- 骨格筋指数(SMI) など
特に糖尿病では浮腫を伴う患者さんも多く、むくみによる「見かけの筋肉量増加」 を見抜くことが重要です。InBody の ECW/TBW(細胞外水分比) を併せて確認することで、筋肉が増えたのか、水分が増えただけなのかを判別することができます。

■ 糖尿病治療における InBody の有用性
血糖値が高い状態では、筋肉は分解されやすく・合成されにくい状態になります。
しかし、血糖コントロールが良好であれば、大幅な減量を行っても筋肉量が維持されやすいという傾向があります。
実際に、
- 有酸素運動中心のプログラム
- 食事療法
- 薬物療法(GLP-1受容体作動薬など)
を組み合わせながら治療を進めた患者さんでは、体脂肪をしっかり減らしつつ、筋肉量を維持・増加できたケースが多くみられます。
InBody で得られるデータは、糖尿病・肥満治療における治療方針の見直しや、患者さんのモチベーション向上にも大きく貢献しています。
■ 水分バランスから「むくみ」と「筋肉の質」も評価
InBody 580 では、体水分量の内訳まで評価でき、
- ICW(細胞内水分)=筋肉の質に関連
- ECW(細胞外水分)=むくみや炎症の影響を反映
- ECW/TBW(細胞外/細胞内水分)=細胞内・細胞外の水分バランスの指標
といった詳細な解析が可能です。
糖尿病・腎疾患・肥満ではむくみが出やすく、筋肉量の評価に誤差が出やすいため、水分情報の併用は必須 と言えます。

■ TANITA DC-270A-N との比較
当院では以前より医療用体組成計であるTANITA DC-270A-N を使用しております。
| 項目 | InBody 580 | TANITA DC-270A-N |
| 測定原理 | マルチ周波数 8点接触式 | 多周波インピーダンス法 |
| 算出方法 | 統計補正なし(実測重視) | 年齢・性別の統計補正あり |
| 筋肉量評価 | 部位別・SMI算定が高精度 | 総合スコア中心・SMI算出可能 |
| 水分評価 | 筋肉の質・むくみ・水分バランスを個別測定 | 細胞内・細胞外の水分バランスの表示は簡易的 |
| 浮腫の評価 | 細胞外水分比で精密に評価 | 浮腫評価は限定的 |
| 重症肥満の対応 | 統計補正がないため精度が落ちにくい | 補正の影響で誤差が出ることがある |
| 臨床活用度 | 糖尿病領域での学術報告が多い | リハビリ・健診分野での利用が多い |
TANITA DC-270A-Nも非常に優れていますが、当院が糖尿病・肥満治療で特に重視したのは、
- 浮腫の影響を正しく判定できること
- 統計補正を使わず、実測値に基づく評価が可能であること
- SMI(骨格筋指数)や部位別筋量の精密分析ができること
であり、この点で InBody 580 の方が当院の診療目的に合致している と判断しました。
■ 測定できない方
- ペースメーカーや植込み型医療機器を装着している方
- 妊娠中または妊娠の可能性のある方
- 体内に金属製のインプラントがある方
- 伝染性の皮膚疾患がある方
- 6歳未満のお子さま
■ 測定はどのように行うのか
当院では、診療目的に応じて以下のように InBody 測定を1回600円にて運用していきます。
・肥満症治療の方:毎回測定
高度肥満では、治療の効果判定に筋肉量・体脂肪量の変化を正確に把握することが特に重要です。
減量が順調でも、筋肉が落ちすぎていないか、むくみの有無などを常に確認する必要があるため、毎回の診察で InBody を実施します。
・糖尿病をお持ちの方:希望者に実施
糖尿病患者さんでは、食事療法・運動療法・薬物療法の組み合わせによって体成分が大きく変化します。
ただし全員に毎回必要なものではないため、以下の確認の際に活用していく予定です。
- 筋肉量の維持状況を確認したい
- 減量時の「中身の変化」を知りたい
- むくみ(浮腫)の評価をしたい
- 運動の効果を見たい
・腎疾患・心疾患をお持ちの方:必要に応じて/希望者
腎疾患や心疾患の患者さんでは、水分が体に溜まりやすく、体重だけでは病状の変化がわかりにくいことがあります。InBody 580 は全身や部位ごとの水分バランスを詳しく測定できるため、むくみの程度や場所を正確に把握できます。また、水分量を考慮して“本当の筋肉量”を評価できるため、サルコペニアの早期発見にも役立ちます。これらの情報は、塩分制限や食事療法の調整、利尿薬の効果判定など、治療方針の判断に非常に有用です。
・その他:測定を希望される方
医師・管理栄養士が結果の見方を丁寧に説明し、治療計画に活かしていきます。
■ 多職種チームでの活用
当院では、医師・管理栄養士・看護師が連携し、InBody のデータを共有しながら治療を行います。
- 医師評価:血糖コントロールと筋肉量・水分量変化を総合判断
- 療養指導:運動内容の提案、むくみの確認、部位別筋力の弱点を可視化し、トレーニング計画に反映
- 栄養相談:食事内容の改善と、体脂肪/筋肉の変化を連動して評価
体の中身の変化が数値で“見える化”されることで、患者さんのモチベーションが高まり、継続的な生活改善につながることが期待されます。
■ 最後に
InBody 580 の導入によって、体重だけでは判断できない身体の変化を正確に捉え、患者さんとともに最適な治療を進めていきたいと考えています。
今後も、栄養・運動・薬物療法を総合的に組み合わせながら、
“筋肉を守りながら健康的に痩せる”
ことを目指し、スタッフ一同取り組んでまいります。




