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【妊娠糖尿病学会2025レポート①】

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こんにちは。
2025年10月24日(金)・25日(土)の2日間、東京都・砂防会館別館シェーンバッハ・サボーで開催された「第41回日本糖尿病・妊娠学会学術集会」に参加してまいりました。

今回の学会テーマは「糖尿病領域のプレコンセプションケアを考える」。

妊娠糖尿病学会では、初代理事長・大森安恵先生の長年の研究を礎に、現在も長期にわたる疫学研究「DREAMBee Study(Diabetes and Pregnancy Outcome for Mother and Baby Study)」が進行中です。
この研究は妊娠糖尿病および糖尿病合併妊娠における母児の妊娠転帰や長期予後を追跡する多施設前向き研究であり、学会全体として正確で新しいデータを積み上げ、広く共有していこうという強い気概を感じました。
これまで妊娠糖尿病(Gestational Diabetes Mellitus:GDMは、妊娠中および分娩直後の母体・胎児への影響を中心に議論されてきました。
しかし近年では、出産後の母体の長期的な健康リスクにも注目が集まっています。
特に、GDMを経験した女性では2型糖尿病や心血管疾患を発症するリスクが上昇することが明らかになり、出産後の予防とフォローアップの重要性が強調されています。

 

妊娠糖尿病(GDM)とは?
妊娠期は、女性の一生の中で最も厳格な血糖コントロールが求められる時期です。
妊娠中は胎盤から分泌されるホルモンの影響でインスリンの効きが悪くなり、血糖が上昇しやすくなります。
妊娠中に初めて見つかる血糖値の異常を「妊娠糖尿病」といいます。
晩婚化や肥満、体重増加などの影響もあり、近年GDMの発症率は増加しています。日本では2010年に診断基準が改訂され、それ以降、患者数はおよそ4倍に増えたと報告されています。

出産後にも続くリスク
「赤ちゃんが無事に生まれたから一安心」と思うのは当然ですが、妊娠糖尿病は出産後も続く健康リスクを伴います。
研究によると、GDMを経験した女性は将来2型糖尿病を発症するリスクが7倍以上に上昇します。なかには「出産から5年以内に約半数が糖尿病を発症した」という報告もあり、決して珍しいことではありません。
さらに近年の研究では、GDM既往が将来の心臓病や血管疾患のリスクにも関係している可能性が指摘されています。

妊娠糖尿病になりやすい人の特徴
妊娠糖尿病を経験した人の中でも、特にその後糖尿病へと進行しやすい特徴が明らかになっています。
• 妊娠前または出産後のBMIが高い
• 年齢が高め
• 家族に糖尿病がある
• 妊娠中の血糖値(特に空腹時)が高かった
つまり、遺伝的な体質だけでなく生活習慣も発症リスクに大きく関わっているのです。

出産後こそ大切にしたい予防とケア
出産後は赤ちゃん中心の生活になりがちですが、実はこの時期こそ将来の健康を守るチャンスでもあります。
妊娠糖尿病学会では、予防のために以下の4つのポイントが重要とされています。
① 定期的な血糖チェック
出産から6〜12週後に「75gブドウ糖負荷試験(OGTT)」を受け、その後も3年ごとにフォローアップすることが推奨されています。
ただし日本ではまだ、継続的なフォロー体制が十分に整っていないのが現状です。
② 生活習慣の見直し
食事と運動による「ライフスタイル改善」は最も効果的な予防策です。
米国の研究では、体重を7%減らし、週150分の運動を続けることで糖尿病発症を半分以上抑制できたと報告されています。
③ 母乳育児のすすめ
母乳育児は母体と赤ちゃんの双方の健康を守る効果があります。
授乳期間が長いほど、母体のメタボリックシンドロームや糖尿病の発症率が低下することが報告されています。
④ 必要に応じた薬物療法
一部の研究では糖尿病治療薬(ピオグリタゾンなど)が予防に有効とされていますが、現時点では保険適用外であり、一般的な治療としては推奨されていません。

 

「誰がフォローするのか?」という課題
産後の女性のフォローアップには、「誰がどのようにケアを担うのか」という課題があります。
学会では、出産直後の糖負荷試験を産婦人科で実施し、結果に応じて内科と連携する体制が理想的であると提案されています。
こうした連携体制が整えば、「出産がゴール」ではなく「母の健康のスタート」となる医療の仕組みづくりが進むでしょう。

若い世代から始めるプレコンセプションケア
「プレコンセプションケア」とは、妊娠前から自分の心と体の健康を整えるためのケアのことです。
「妊娠したら気をつける」ではなく、「妊娠する前から準備しておく」という考え方が重要です。
妊娠前の健康状態は、妊娠中の合併症や赤ちゃんの発育に大きく影響します。糖尿病・高血圧・肥満・喫煙・過度の飲酒・葉酸不足などは妊娠・出産に悪影響を及ぼすことが知られています。

プレコンセプションケアは「健康な妊娠・出産」を支えるだけでなく、女性自身の生涯の健康を守るための第一歩でもあります。妊娠をすぐに考えていない人にも、将来を見据えたケアが大切です。

今回は、学会初の取り組みとして、「糖尿病プレコンマイスター養成講座」が開催され、糖尿病医療に関わる内科・産科・栄養・運動・精神保健など多領域の専門家が、プレコンセプションケアの基礎から臨床応用までを体系的に学んで参りました。

 

高校生による認知度向上への取り組み
inochi Gakusei Innovators’ Program(iGIP)は、大学生から中高生までが参加し、ヘルスケアにおける社会課題の解決に取り組むプログラムです。
今回の学会には、このプログラムに参加する高校生が初めて登壇し、妊娠糖尿病に対する社会的認知度の低さやスティグマの存在を問題提起しました。
彼らは、GDMマークの考案や情報サイトの設立など、認知向上のための具体的な提案を行い、若い世代による新しい視点の発信が印象的でした。

おわりに──母と子の未来を守るために
妊娠糖尿病は、一時的な病気ではなく、未来の健康を知らせるサインです。
出産後も適切にフォローを行うことで、将来の糖尿病や心血管疾患を予防することができます。
母体の健康管理は、次の妊娠や家族全体の健康にもつながります。「ここから自分の健康を見直すチャンス」と捉え、無理のない範囲で生活を整えていくことをお勧めします。

そして私たち医療従事者は、常に新しい知識と技術を学び、皆さまに信頼される情報をわかりやすく提供できるよう努めてまいります。

 

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