
こんにちは。今回は妊娠糖尿病学会2025レポート第二弾として、DOHaDとプレコンセプションケアについて触れたいと思います。
最近、医療や公衆衛生の分野で注目されているキーワードに DOHaD(Developmental Origins of Health and Disease) があります。
これは、「胎児期や乳幼児期の環境が、将来の健康や病気のリスクを左右する」という考え方です。
つまり、お母さんのおなかの中での環境や、生まれてすぐの時期の生活が、その子の一生の健康に大きな影響を与えるというものです。

胎児期から始まる「一生の健康づくり」
DOHaDは「胎児期や乳幼児期といった発達の早い時期の環境(栄養・ストレス・毒物など)が、将来の健康や病気の発症リスクに長期的な影響を与える」という考え方で、イギリスの疫学者 デイヴィッド・バーカー博士によって提唱されました。その後、世界各国で多くの出生コホート研究が進められてきました。
これらの研究から、胎児期〜乳幼児期の環境(栄養・発育・ストレスなど)が、成人後の生活習慣病や慢性疾患にまで影響することが明らかになっています。
日本では、先進国の中でも低出生体重児の割合が高いという課題があり、その背景には母体の栄養不足や「やせ志向」などの社会的要因も関係しています。
このような現状を踏まえると、妊娠前から母体の健康状態を整えることが極めて重要になります。

妊娠前からの健康づくり=プレコンセプションケア
ここで関わってくるのが プレコンセプションケア(妊娠前ケア) です。
これは、妊娠を望む女性やカップルが妊娠前から健康状態や生活習慣を整えることで、母子の健康を守るための医療・支援を行うものです。
具体的には、
- 栄養状態の改善
- 適正な体重管理
- 感染症や慢性疾患のコントロール
- 禁煙・禁酒
- メンタルヘルス支援 などが含まれます。
DOHaDが「なぜ妊娠前からの健康づくりが重要か」を理論的に示す一方で、プレコンセプションケアはその実践的なアプローチといえます。
糖尿病をもつ子どもたちへのプレコンセプションケア
糖尿病をもつ子どもたちにとっても、このプレコンセプションケアの考え方は非常に大切です。
思春期を迎える頃には、将来の妊娠や健康に関する意識を少しずつ育てていくことが必要になります。
しかし現状では、
- 小学生や中学生の段階での教育・介入がまだ十分ではない
- 学校や家庭でのサポート体制が整っていない
- 女児中心のケアになりやすく、男児への支援が手薄になりがち
といった課題があります。
男女がともに取り組むプレコンセプションケア
実際には、プレコンセプションケアは女性だけでなく男性にも重要です。
男性の栄養状態や生活習慣(喫煙・飲酒・ストレス・肥満など)は、精子の質やDNAのメチル化パターンなどを通じて、次世代の健康に影響を及ぼすことが報告されています。
また、パートナーの健康意識や協力体制が、妊娠期・育児期の母体の健康維持に大きく関わることも分かっています。
つまり、プレコンセプションケアは女性のためのものではなく、男女がともに取り組む“次世代への健康投資”なのです。

病院が果たす役割
こうした中で、医療機関が家庭や学校を補完する役割を担うことが期待されています。
糖尿病外来などの診療の中で、将来の妊娠やライフプランの話題を自然に取り入れたり、医療スタッフが子どもや家族とともに健康意識を育む場をつくることが大切です。
また、男児・女児を問わず、自分の体と将来の健康について学ぶきっかけを提供することが、プレコンセプションケアの第一歩となります。
未来への投資としてのケア
DOHaDの視点に立つと、「子どもの未来の健康」はすでに妊娠前から始まっているとも言えます。
糖尿病をもつ子どもたちが、将来自分の健康と命をつなぐ大切な選択をしていけるように、医療・教育・社会全体で支えていくことが大切です。
プレコンセプションケアは、単に「妊娠の準備」ではなく、男女ともに生涯にわたる健康づくりのスタートライン。
その意識を広げることが、次の世代の健康を守る第一歩になるのではないでしょうか。




