
「実年齢」と「体の年齢」は違うって知っていますか?
「1年で1歳、年をとる」
――これって本当にそうでしょうか? 実は、人によって“年のとり方”には差があります。 たとえば、同じ40歳でも「体の中は35歳」の人もいれば「実は45歳」の人もいるのです。生活習慣や環境によって、老化のスピードは大きく変わる。 これを客観的に測れるのが、いま注目されている「エピクロック」です。
Andrew E. et al.(2025)より改変
エピジェネティクスとは
「老化」は単なる時間の経過ではなく、私たちの細胞の中で静かに進む“分子の変化”によってもたらされます。その中心にあるのが「エピジェネティクス(Epigenetics)」です。これはDNAの配列を変えずに、遺伝子のオン・オフを制御する仕組みで、なかでも「DNAメチル化」という化学修飾が重要な役割を果たしています。
このメチル化は、DNA上の“CpGサイト”にメチル基(CH₃)が付くことで起こり、まるで遺伝子にスイッチを入れるように働きます。
エピクロックで“本当の年齢”を測る
DNAメチル化のパターンを解析し、「体の中の年齢=生物学的年齢」を推定する技術がエピジェネティッククロック(エピクロック)です。
暦の年齢とは違い、実際の細胞の老化の進み具合(エイジギャップ)を数値で示すことができます。近年では、疾患リスクや死亡率とも関連することが分かっており、「老化を測る新しい指標」として注目されています。
日本でも、株式会社レリクサ(Rhelixa)が提供する「エピクロック®」検査が登場しています。これは日本人のデータに基づいたAIモデル(TENet法)を活用し、DNAメチル化の解析から精密に生物学的年齢を算出します。自分の“体の年齢”を科学的に知ることができる時代が来ています。
Andrew E. et al.(2025)より改変
老化を遅らせるカギは「生活習慣」
研究では、食事や運動といった日常的な行動がエピクロックを“巻き戻す”ことが報告されています。
例えば、植物中心の食事、葉酸やビタミンB群、ポリフェノールの摂取、定期的な有酸素運動や筋トレは、DNAメチル化パターンを健康的に保ち、老化速度を緩やかにします。
一方で、ラパマイシンやメトホルミン、NMNなどの薬剤介入も研究が進んでいますが、現時点では食事や運動を補完・強化する手段として期待されています。
将来は、これらのアプローチを個人の体質やエピゲノムに応じて組み合わせた、パーソナライズドな老化制御が進展していくと考えられます。
老化を「測って」「整える」時代へ
エピジェネティッククロックは、老化を“見える化”するだけでなく、その進行をコントロールするための指針にもなります。
将来的には、食事・運動・薬剤を個人の遺伝やエピゲノムに合わせて最適化する「パーソナライズド老化制御」が実現していくでしょう。
時間に流されるのではなく、自分の老化を“設計”する時代が、すぐそこまで来ています。
もし1年に0.3歳しか歳を取らなかったら――10年後、同い年の人より7歳若い身体かもしれません。 そんな未来、ちょっとワクワクしませんか?